オペレーションズ・マネジメントとは?
「トレードオフの関係があることを理解し、二つの要件が両立しないことが分かっただけでも、仕事がすごく楽になりました。」
これは弊社のトレーニングを受講した3PL企業のマネージャーの気付きです。
サプライチェーンは、販売・輸送・製造・調達といった主要な機能を含み、R&D、マーケティング、財務などの機能と密接に連携します。そして、これら機能の間には、複雑なトレードオフの関係があります。
言わば、SCMの仕組みは、機能間つまり組織間のトレードオフの調整という、経営観点の下に成り立っています。それ故、その再構築に際しては経営判断が必要です。しかし、この経営判断がダイナミックに行われないと、サプライチェーンは硬直化し、機能を停止します。
しかし、そうした現実を理解しないで、二つの要件の両立を求める上司、解のない問題に挑み自分を責める部下。機能間のトレードオフの解決には戦略的判断が必要であるにもかかわらず、判断を人任せにするトップマネジメント。
オペレーションズ・マネジメントは、こうしたトレードオフ関係の顕在化と、ダイナミックな経営判断を支援する手法です。そのための知識や人材が欠けている企業は、気づかぬ間に市場の競争からの落伍者となります。
オペレーションズ・マネジメントは、問題のメカニズムをとき明かし、解決の方向性を示すことで、企業戦略の実践を目指す鍵を握っています。
QCDFとトレードオフ
モノやサービスを供給するサプライチェーンの活動は、Q(Quality:品質)、C(Cost:コスト)、D(Delivery:納期)、F(Flexibility:柔軟性)の4つの視点で評価されます。
Qの品質は、いわゆる製品やサービスの仕上げの良さや信頼性に留まらず、選択肢の広さなどの“顧客の要求にどれだけ応えられるか”という広い意味での品質とします。Cは提供のために要するコスト、Dは提供のために要する時間、Fは製品やサービスを提供する種類・量・場所・タイミングなどの修正の容易さ、をそれぞれ表現します。
QCDFの間には、トレードオフの関係が内在します。例えば一般的に、Qを上げればCもまた高まり、Dは遅れ、Fは下がります。Cを下げればQDFが、Dを短くすればQCFが、Fを上げればQCDが、それぞれ犠牲になるかもしれません。簡単な例を下の図に示します。
この図は、QとCの関係を示しています。Qを高めつつ、Cを下げる、という取組みを数多く繰返すと、Qを上げるとどうやってもCも上がってしまうという、見えない限界があることが分かります。これを“フロンティア”と呼びます。
サプライチェーンの活動はさまざまな機能の総合力
サプライチェーンはさまざまな活動により、モノやサービスを提供する機能を実現しています。例えば、サプライチェーンは、調達、製造、輸送、在庫、販売などさまざまな機能を含み、R&D、マーケティング、財務などとも深い関係があります。
つまり、さまざまな機能が連携してQを高め、Cを下げ、Dを短縮し、Fを高めようとしています。効率的にQを高めるためには、ある機能が他の機能の足を引っ張る「ボトルネック」にならないように、すべての機能をバランス良く高める必要があります。CDFについても同様です。
トレードオフ
QCDFがさまざまな活動により実現されていることは、トレードオフ関係の発見を難しくします。例えば、製品の色の選択肢を増やすと(Qを上げると)、部品のロットが小さくなり調達価格があがる、段取り替えの回数が増える、同様のDを維持するための在庫量が増加する、などさまざまな機能のCに影響があります。
QCDFの最適な組合せを探る
これらのトレードオフ関係に留意しながら、QCDFの最適な組合せ(QCDFミックスと呼びます)を探すのはどのようにするのでしょうか?下の図を見てください。
まず、フロンティアに達していない状態(赤いエリアの●)であれば、到達するまでQとC双方を改善する必要があります。つまり、①効率改善です。
つぎに、フロンティアの上におけるポジションは、QとCのどちらを、どの程度重視するかという方向性を示しており、企業の戦略と合致していなければなりません。つまり、QCDFミックスを探すということは、QCDFの組合せで戦略を表現することに他なりません。この意思決定を、②戦略的ポジショニングと呼びます。
さらに、QとCのどちらも改善したければ、仕事のやり方を大きく変えなければなりません。つまり次のフロンティアを切り開く、③イノベーションが必要です。
オペレーションズ・マネジメントとは、企業戦略を実践する手段
オペレーションズ・マネジメントは、QCDFを実現するためのさまざまなオペレーション“ズ”の特性を理解して、それらの間のトレードオフ関係を見出し、①効率改善、②戦略的ポジショニング、③イノベーション、の3つの方法で戦略の実行力を高めます。
オペレーションとは、企業にとっては機能を、顧客にとっては価値を生み出すプロセスです。オペレーションズ・マネジメントとは、企業が提供する顧客価値を具体的なオペレーションズの組み合わせで表現することであり、企業戦略を実践する手段そのものなのです。
- 1. 効率改善
- 2. 戦略的ポジショニング
- 3. イノベーション
オペレーションズ・マネジメントの仕組みは常に見直しが必要
②の戦略的ポジショニングや③のイノベーションとは異なり、①の効率改善は、継続的に運用するために部門毎の役割(組織)やITといった仕組みとしてインプリメントされます。
そして、需給バランスの変化、競合他社の動き、新しい技術による製品の登場、新しいパートナー企業との連携、海外進出といった環境の変化に際しては、再度②の戦略的ポジショニングや③のイノベーションを検討し、その結果にもとづいて仕組みを再設計・再構成する必要があります。
この再構成を怠ると、組織やITがむしろ臨機応変な対応を阻んでしまいます。①の効率化のための仕組みは、②の戦略的ポジショニングや③のイノベーションの足かせとなってしまいます。つまり、適社生存のプロセスとは、環境変化に応じて②の戦略的ポジショニングや③のイノベーションによりQCDFミックスを組み替えることに他なりません。
マネージャーの仕事 |
業務の最前線にいるマネージャーは、環境変化に際して何がおきているかを見抜けなければなりません。今まで通りの仕事の仕方で、パフォーマンスが上がらなくなったとき、組織内での微調整で良いのか、組織間にまたがるQCDFミックスの組み換えが必要なのかを判断できなければなりません。 そして、QCDFミックスの組み換えが必要であれば、その要請を根拠とともに上申しなければなりません。 |
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社長の仕事 | オペレーションズの最終責任者たるChief Operations Officer、社長は、必要に応じて②の戦略的ポジショニングに関する経営判断を下すか、③のイノベーションを起こすためにクロスファンクショナルな取組をリードしなければなりません。 |
オペレーションズ・マネジメントを担う人材が不足している
ところが、日本にはオペレーションズ・マネジメントを担う人材が不足しています。日本特有の理系文系という区分が、大学教育にとどまらず企業内のキャリアパスにも残っています。これでは、経営的視点とオペレーションズの視点の双方をもつ人材は育ちません。
そして、本来のCOOの判断を下せる社長も多くありません。欧州のCOOの職務経歴はオペレーションズ部門出身が半数近くであり、戦略、財務出身者の倍以上という現状とは対照的です。
成長企業はオペレーションズ・マネジメントを実践している
もちろん、日本にもオペレーションズ・マネジメントの重要性を理解し、実践している企業もあります。例えば、特異なロジスティクス戦略により急成長しているある専門商社は、執行役員になるまでにIT、ロジスティクス、経理の三部門を必ず経験させ幹部候補を育成しています。主要機能間のトレードオフのメカニズム、仲裁方法を肌感覚で理解させているのです。
御社のオペレーションズ・マネジメントをお手伝いします
ITやロジスティクスなどの進歩が、ビジネスモデル自体を変革する今日、オペレーションズ・マネジメントの実践は競争優位性の確立に欠かせません。バリューグリッド研究所は御社のオペレーションズ・マネジメントをマネージャー向けの人材教育と、経営者向けのコンサルティングでお手伝いいたします。